音楽撮影
音楽を思い描くには、じっくりと耳を澄ますことだ。
そしてミュージシャンと近距離にいればいるほど、より注意深く耳を傾けることが大事になってくる。
CD をかけたり、コンサートで目を閉じたりと、ミュージシャンを見ない状況にあると、より音楽に集中できる。逆もあって、視覚(ミュージシャンの動きなど)と聴覚(奏でる音楽)は直接的なつながりが無いという説もあるが、ミュージシャンをじっくり観ることでも、音楽に集中できるものだ。
あるとき、パーカショニストのZakir HusseinとVikku Vinayakramが出演したコンサートの終わりに、舞台袖で私の脇に立っていたドラマーの女性に「今の観た?」と尋ねた。すると「観た?私は聴いていたわ。」との答えが返ってきたことがある。
もちろん、そのドラマー(当時Jazz Warriorsに所属していたCheryl Alleyne)は言語学的により的確な表現を用いたわけだが、それでも尚、私としては演奏を観て、音楽を目にしたという感覚があった。手の動きや表現を追い、リズムの裏に潜む内なる理論を少しでも外見から拾おうとしていたのだ。やがて私は、二人が同じ音楽をかなり違った形で体験したのではないかと気づき、その点に興味を持った。
ただ、これは恐らく感覚的なアプローチの差と同じで、同じテーマに対する職業的なアプローチの差に過ぎないことなのだろう。以前、あるミュージシャン(うる覚えだが、ピアニストのKeith Jarrettだったように思う)に、音楽を写真に撮ろうとするのは不可能だと言われたことがある。なぜなら、演奏者の外見からは音楽は聴こえてこないからだ。確かにそうである。実際、あるミュージシャンを前にして「ジャズ写真家」として自分が紹介された際に「何、それ?」と困惑した表情で見られた経験がある。「ジャズミュージシャン」ですら枠にはまった呼び名に戸惑うものだ。ならば「ジャズ写真家」は?音楽写真というもの自体は(音楽をテーマとした写真とは別で)存在しないのかもしれないが、少なくとも音楽について何かを伝えようと試みてきた音楽写真はあるだろう。
これまで、様々なライブ撮影を担当してきた中で、多くの場合、私はどのように音楽が聴こえてくるかをカメラに収めようとしてきた。別の言い方をすれば、写真のリズムに音楽のシェーディング(音の微妙な変化)を映し出そうと試みてきたのだ。私は、音楽の形式に(写真を)当てはめようという手法を試みた。もし楽譜にカメラの出番も含まれていたとしたら、その瞬間に合わせてシャッターを切るという感覚である。
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自分をかき消すこと
私はピアノの脇に場所を確保し、ミュージシャンの手がキーボードの反対側へ移動するのを追うことだけに集中してカメラを向けた。クラブやステージの落とした照明の中では、シャッタースピードを長く取る必要があるため、無闇に手を追ってもいい写真は撮れない。その代わり、音楽に耳を傾けることで、その旋律からカメラの焦点を当てているところへ手がいつ戻ってきそうかを探る。例えば(ピアニストが)ある低音を間もなく弾くことが分かっていたら、正しい位置で構え、手が別のところへ移動してしまう前に、その音が鳴った瞬間にシャッターを切れるだけの準備を整えるのだ。
ミュージシャンのすぐ脇に座っていると、自分の存在をかき消すのがうまくなる。コンサートでは、鑑賞している聴衆の邪魔にならないよう、またリハーサルでは、ミュージシャンの集中力を削がないよう心がけることで。
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舞台裏で仕事をすることで、時には音楽の背景となるプロセスを目にする機会にも恵まれた。Gil Evansオーケストラがサウンドチェックをし、75歳のバースデーツアーのリハーサルをする際に立ち会ったこともあった。その時はGilのゲスト、 Van Morrisonが(私の好きな楽曲のひとつ)「ムーンダンス」のサウンドチェックをしている最中、私はカメラを持って彼の至近距離に立っていた。また、オーケストラのメンバー、Hiram Bullockがステージから外れた場所でリラックスしながらギターの練習をしている写真を収めることもできた。他にも、ピアニストのGeri Allenが自分の子供を背負いながらリハーサルをしているめずらしい練習風景に遭遇することができた。(当時、写真家たちはその写真の使用は控えて欲しいと彼女から依頼されていた。)
他にも光栄な場面としては、近年の指揮者Gyorgy Ligeti(スペースオデュッセイのサウンドトラック「2001」への功績で最も有名)が百個のメトロノームを設置する様子を眺め、それらに対してまるで指揮をしているかのような写真を撮ったことがある。また、BB Kingのバンドが名立たるロイヤルアルバートホールのステージでサウンドチェックをし、本番へ向かう瞬間の興奮を共にしたこともある。
ステージの前でコンサートが開催されている間に写真を撮る方が苦労は多い。それは単に身動きがあまり取れず、聴衆の邪魔にならないよう気をつけなければならないからだけではなく、カメラからは完全な闇としか読み取れない中でスポットライトの弧がくっきりと浮き上がってしまうからだ。
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こうした仕事をこなす度に、光の少ない環境で撮影することへの自信がついた。問題を乗り越えることは大抵、刺激になったが、制約の中での撮影には頭を抱えることも多かった。ミュージシャンの細かい動きを捉えようと、シャッターが開いている時間分、カメラがぶれないようにじっくりと構えるのは(フィルムの仕上がりがどうなるか気にしながら撮るという点で)至難の技であった。
多くの演奏において、私は音楽に耳を傾け、バスの演奏者が弓使いの中で静止する瞬間、サックス奏者が一心に演奏しつつもシャッターが開いている1/4秒間で、静止する瞬間を予測した。もちろん、そんな時でさえ奏者たちは、私の露光スポットに対して、出たり入ったりすることもあった。(通常、手でカメラを持つ場合はシャッタースピードを最長1/60秒に設定するよう教えられため、動いている対象を1/4秒で撮るには経験が要る!)特に50年代と60年代にハーレムを撮り続けた写真家、Roy de Caravaは、あまりにも光の少ない環境で撮影をしていたため、フィルムに果たして何か記録されたのかの確信も無いまま家に帰ったものだと話していた。
時代を形作るもの
これらの写真を撮っていた頃、ロンドンとニューヨークにおいて、ジャズクラブは盛んのようだった。ニューヨークでは、Village Vanguardのように定評のあるクラブだけでなく、例えばKnitting Factoryのような話題のクラブでも、その狭い空間でGeri Allenのような人物を再び目撃することもあった。この時は、狭いステージを埋め尽くす八重奏の前面にいたのだが、前列のテーブルに座っていたためにトロンボーン奏者のスライドに文字通りかがまなければならず、楽譜スタンドが私の上に倒れてくるという事態に見舞われた。(それだけに、私のカメラの両側で Rayse Biggsが二つのトランペットそれぞれを演奏するといったようなシーンを至近距離で写真に撮ることもできた。)また、Ronald Shannon Jacksonのバンドが最近亡くなったArt Blakeyを追悼する感動的なコンサートで、歴代の名ドラマー達も回想させるようなドラマチックな演奏の光景も撮ることが出来た。
このような写真の大半が撮られたイギリスで、私が音楽へ関心を抱くようになったきっかけはJazz Warriorsというバンドの初期のとある演奏にある。新人とベテランのジャズ奏者から成る結成したてのビッグバンドとして、Warriorsは英国ジャズブームの火付け役の如く、当時のInstitute of Contemporary Artsの聴衆に音楽的な影響力で嵐を巻き起こした。彼らは、コンサートでアンコールを求められると、それまでの演奏で「全てやり尽くしてしまった」ため、何もアンコール用に残していないことを告げざるを得ないほどの人気ぶりだった。それでも尚、このバンドから他の音楽的な成功へと切り開いたメンバーは Courtney Pineただ一人であった。
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同時に、ひとつの時代の終息でもあった。Dizzy Gillespie、Art Blakey、MilesDavis、Lester Bowieなどのアメリカの偉大な奏者はもはやいない。ただし、時には物議をかもし出すMarsalises、ファンク調のサックス奏者Steve Colemanと仲間たち、又はピアニスト Marilyn Crispell(私が最初にお会いした頃、彼女は40代に突入しても生活が苦しく、Woodstockに小さなキーボードがかろうじて収容できるほどの部屋を友人から借りていたが、今は敬愛されるピアニストである)などは自らの評判を確立したり、固めたりしていった。そして「ノイズ」ミュージシャンと呼ばれるOotomo Yoshihideのような人物は我々をさらなる方向へと導いてくれた。
振り返れば、この一連の写真は正に、私にとって「とある時代」を物語るものだ。
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- Andrew Pothecary/翻訳:池本なをか


Andrew Hill


A bass scroll


Celia Cruz


Cassandra Wilson


Gill Evans, on his 75th Birthday Tour


Joe Henderson


Miles Davis


Ornette Coleman, with the Royal Philharmonic Orchestra
Above: A selection of music photographs: hover over the thumbnails for a larger image and caption
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This article originally appeared in, and is slightly adapted from, my article which appeared in Wire magazine



